横書き文書の句読点

目次

高等学校の数学科教育における横書き文書の句読点について考える。さらに,感性の度合いが大きくなるものの,併せてその他の横書き文書についても思い見る。

先に,日本語は句読点に寛容であり書き手が思うように使えばよいことを申し添えておく。この記事は,私がどのような句読点を選んだかの記録に過ぎない。

当然だが,ここから先の議論は横書き文書を前提とする。縦書き文書では,ほとんどの場合「、。(テンマル)」が使われているだろう。

なお,引用においても句読点は本文と揃えることが多いが,ここでは句読点を話題にしていることに鑑み,すべて原文のままとした。

背景

前置き

横書き文書における句読点は,ときに過ぎた表現が見られるほど,一部では熱く議論される。実際のところ,日本語には唯一の正書法と呼べるものがないため,好みや文章の中身に合わせて書けばよいというところに落ち着くだろう(ここでは,正書法があるべきか否かについては話題にしない)。そのうえで,次の文章における句読点をどうしてゆくかを考える。

  • 高等学校の数学科教育における文書(主題)。
  • 公務員として書く公文書(傍題)。
  • その他の横書き文書(傍題)。

繰り返すが,これは周囲にもそのように書くべきと述べているわけではない。自分なりに考えた根拠を書き残すためのものである。広く公開するのは,同じように悩むひとにとって役立てば幸いだと思うところによる。

権威による言及

この節については,とくに記事執筆時点(2024-12-03)が過渡期であることに気を配られたし。

1951年に国語審議会から「公用文作成の要領」が建議され,1952-04-04 付内閣官房長官名で各省庁次官へ通知が出された。

ここしばらくまでの文書では,これを根拠として「,。(カンママル)」を使っているものが公文書・教科書などを中心に見られた。また,JIS 規格票の様式としても「,。(カンママル)」に決められているため,これに倣う例もありそうである。一方,市井では「、。(テンマル)」の文章が多く,これは小学校国語ではじめに習うものが定着しているのではないかと思われる。共同通信社も「、。(テンマル)」としているが,これは同じ原稿を縦組み横組みの双方で使いやすくするためだろうか。また,数学書や理工系の文書では「,.(カンマピリオド)」もよく見かける。文末が数式や欧文になるのなら,ピリオドが自然だろう。なお,東京書籍による数学教科書は「,。(カンママル)」であり,数研出版による数学教科書は「,.(カンマピリオド)」である。

句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。事物を列挙するときには「・」(なかてん)を用いることができる。

区切り符号には,句点“。”,読点としてのコンマ“,”,中点“・”及びコロン“:”を用いる。斜線“/”は,通常,“及び/又は”などを表記する場合に用いる。なお,セミコロン“;”は,用いない。

  • JIS Z8301
    • 一般財団法人日本規格協会(JSA)
    • 規格票の様式及び作成方法 JIS Z8301 : 2019
    • 日本産業標準調査会
    • p.98
    • 制定1951,改正2019
    • この規格は「JIS 規格票の様式」すなわち JIS 規格の文書をどう書くかを定めたものであって,他の文書の書きかたを指示するものではない。しかし,これに則っている例は数多見られる。

文章の区切りを示すために用いる句点は「。」,読点は「、」を使う. 「.」「,」は使わない.

このハンドブックが旧版同様,マスコミ界だけでなく,官庁,会社,教育界その他一般の方々にも広く活用していただけるよう願っています.

教科書出版大手の東京書籍は、対応を検討中。高垣浩史・編集総轄本部長は「要領を根拠にコンマを使ってきた。教科書の編集者は新人研修でコンマを使うことを習い、外部筆者の原稿のテンをコンマに直す作業がつきものだが、それが変わるのかもしれません」

  • http://blog.livedoor.jp/mineot/archives/52199552.html
    • 高山峯夫
    • 横書きの公用文で「,」が「、」に?
    • 高山峯夫のホームページ
    • 参照 2024-12-03
    • 孫引き,朝日新聞(2021-03-21)『横書きの公用文、「,」が「、」に? 70年ぶり検討』による,とある。
    • ここでは,東京書籍による教科書が「,。(カンママル)」であることについて「要領を根拠に」とされたことを見るために引用している。

数研出版はかなり確信犯的にやっていて,有名な学習参考書のチャート式で,社会・英語は「コンマ・まる」で,数学・理科は「コンマ・ピリオド」にしています.

さて,2022-01-07 に文化審議会から「公用文作成の考え方」について(建議)が出された。この中で,これまでの「,。(カンママル)」から「、。(テンマル)」を基本とすることに改められた。ただし,「,。(カンママル)」も許容されている。

句点には「。」(マル)読点には「、」(テン)を用いることを原則とする。横書きでは、読点に「,」(コンマ)を用いてもよい。ただし、一つの文書内でどちらかに統一する。

このことから,今後は多くの文章が「、。(テンマル)」で書かれるようになるだろう。ただし,科学技術系・学術系の文章はアルファベットや数式との親和性のために,必ずしもそうはならないかもしれない。

なお,この文章を書くにあたって WWW 上の記事も調べた。統計処理をしたわけではないが,「、。(テンマル)」を推す文章はそれ以外の文章よりも他の書きかたに批判的なものが目立つように感じる。おそらくそもそも「、。(テンマル)」で書かれることが多いため,単に自らが「、。(テンマル)」を使うという表明では文章に書く動機として弱く,ほかの書きかたが好みでないからこそ書かれた記事の割合が増えるのだろう。「,。(カンママル)」や「,.(カンマピリオド)」については,その書きかたを使う理由について述べるだけでも記事になるのだと思われる。もちろん,これは傾向であり,すべてがそうであると断じるものではない。ところで,「横書き句読点の謎」(渡部善隆)にあるように「それ以前に,誰も何も考えていないフシがある」が実際の大勢であろうか。

しつこいようだが,日本語には唯一の正書法と呼べるものがなく,幅広い書きかたが許されている。それぞれが,自分の考えや好み・書く文章の中身に合わせて句読点を選べばよい。

解決

数学科教育における文書

私が書く数学科教育における文書については,次のように句読点を用いる。

  • 句点はつねに全角の「。(マル)」を用いる。
  • 読点は次のように使い分ける。
    • 和文中では全角の「,(カンマ)」を用いる。
    • 前後がともに数式であるときに置くカンマは,数式書体のカンマ(すなわち半角のカンマ)を用いる。数式は欧文なのでカンマの後ろに半角スペースを入れる。
    • 前後が数式と和文であるときに置くカンマは,全角の「,(カンマ)」を用いる。

要するに,ほとんどの場合は「,。(カンママル)」を用い,数式の中で使うときは欧文と理解して半角のカンマを用いる。欧文のまま文章が終わることはないとみて「.(ピリオド)」は使わない。文末が欧文であっても,その後に和文の空集合があるものとみなす(たとえば「である」などが省略されているものと考える)。

たとえば,次のように書く。なお,多くの例を含むべく不自然な文である。また,私はふつう,式のまま文を終えることはしない(板書において字数を減らすためにするときを除く)。

自然数 $n$ に対して,$n$ 個の変数 $a_{1}$, $a_{2}$, $a_{3}$, $\ldots$, $a_{n}$ を定める。$a_{1}=3$ とおくとき,次が成りたつ: $2a_{1}=6$。また,$3a_{1}=9$ を得る。

読み手としては,句読法は自由であったことから原則として指導はしない。たとえば,次のようなものも読み手としては受けいれる。

関数 $f$、$g$ を次のように定める: $f(x)=\sin x$、$g(x)=\cos x$。

公文書

教諭であれば,公文書を自らの名で出すことはあまりない。学校名や校長名,あっても担任団名義などの文書を書くのであれば,2022年に改められた「公用文作成の考え方」に基づいて「、。(テンマル)」とする。2024年の状況では「,。(カンママル)」での原稿は管理職に差し戻されるのではないだろうか。

文書を書くにあたって「、。(テンマル)」を使うと混在のもとになり,また変換候補も汚してしまう。このときは,まず「,。(カンママル)」で書いておき最後に「、。(テンマル)」に置換するのがよいだろう。

懇談日程のお知らせなど,担任として個人名で出すものについてはその都度判断する。あらかじめ決めておかなくとも,そもそも書く機会が少ないため差しつかえない。今のところ,日付・発信者・宛先・タイトルを左右に振り分けてから書きだす体裁のものについては「、。(テンマル)」にしておくのが落ち着くだろうと考えている。

その他の文書

数学的文章・技術的文章・その他の文章で句読点は使いわけず,「,。(カンママル)」を使う。たとえば,教職員向けの作業手順書は職務上の文書であるが「,。(カンママル)」で書く(法的にはこの例は「職員が職務上作成または取得した文書で,組織的に用いられるもの」という行政文書の定義にあたるかもしれないが,ここではそれには立ち入らない)(仮にこれを公文書と解釈したとしても,いわゆる外部向けでないものについては「横書きでは、読点に『,』(コンマ)を用いてもよい」に基づいて「,。(カンママル)」で書くという意味である)。

理由からすれば,数学的文章・技術的文章では「,。(カンママル)」を用い,その他の文章では「、。(テンマル)」を用いるとしても差しつかえない。しかし,文章を書くたびにそれが数学的・技術的かを仕分けることもストレスになる。さらに,変換ソフトウェアの設定においても手間になってしまう。それよりは,句読点は書き手が選んでよいことに基づいて,揃えておくほうが書きやすい。

入力における句読点の設定方法

補足

理由

句読点に「,。(カンママル)」を選んだ理由は次のとおりである。

まず,文書によって使いわけることは避けたいと考えた。ところが,公文書のことを考えると,組織として書くにあたっては「、。(テンマル)」になるだろう。「、。(テンマル)」は言うまでもなく全角である。しかし,私的な感覚として,数式の途中を「、(テン)」にはしたくなかった(たとえば $a_{1}$、$a_{2}$ のように)。

まず,なぜ使い分けたくなかったかを明らかにしたい。

  • 今書いているものがどの句読点のルールにあたる文書か,を正しく分けられるとは思えない。たとえば,数学の授業で配る学びに関する記事だが数式はでてこないなど,どちらともいえない文書で悩むことになる。
  • 句読点の変換は学習されるので,使い分けると誤りが増える。

前者については,「組織名や所属長名などで出す文書を例外」と決めればこれは迷わない。後者については,そのような例が少なければ置換で済ませられる。

ここまでで,公文書は「、。(テンマル)」とし,それ以外では「,(カンマ)」を使うことが決まった。

残るは「。(マル)」か「.(ピリオド)」かである。学術的な場面では「,.(カンマピリオド)」がよく使われるので,それに倣うことも考えた。しかし,学校現場で使われる紙は質がよくないことも多く,ピリオドは紙の地にある模様に埋もれて見づらいことが考えられる。そこで,「,。(カンママル)」を選んだ。

全角・半角の別は,日本語本文は等幅で組むほうが美しいことから,原則として全角を用いることとした。ただし,数式中の列挙にかかるカンマについては,欧文中に全角カンマが混在することになるため,例外として半角カンマを用いることにした。当然ながら,欧文の作法に基づいてカンマの後ろにはスペースが入る。

数式の直後に「。(マル)」を置くことは,「$x$。(エックス,まる)」と「$x_{0}$(エックス,添字ゼロ)」が紛らわしいことから避けるべきという意見もある。その指摘は正しい。しかし,ここではこの問題を避けるために,原則として添字にゼロを使わないこととした。仮に教員が句点を「.(ピリオド)」としても生徒がノートを取るときに「。(マル)」に書き換える例が想像され,その生徒にとって混乱のもとになるからである。もちろん,大学においてそうした学問に接するのであれば添字ゼロに慣れるべきであろう。しかし,高等学校における数学の学びでは,少しでも内容以外の負担を減らしておくのがよいだろうと考えている

規範の更新

2024年時点では「,。(カンママル)」「、。(テンマル)」「,.(カンマピリオド)」の文章はそれぞれの世界において見かけるので,どれを選んでも自由といってよい。しかし,これは「公用文作成の要領」が「,。(カンママル)」を基本としたうえで,混在していたのである。これからは,「公用文作成の考え方」が「、。(テンマル)」を基本とするため,「,。(カンママル)」の文章は減っていくことが予想される。

生徒にとって,高等学校までに「,.(カンマピリオド)」で書かれた学術的文書に触れる機会はあまりない。そのため,時代が下れば,「,。(カンママル)」の文章が生徒にとって馴染まなくなるおそれはある。そのときには,改めて考えたい。

この議論は,文章の体裁を整えるためのものである。句読点の規範を変えねばならないときが来れば,私はついすべての体裁を揃えるべくすでに作った文書についても遡って句読点を整えたくなるだろう。これは不毛である。実際には,文書とは書かれたときの考えかたを示すものに過ぎない。句読点はわかりやすいので置換したくなるが,本来は時が流れていれば中身も手直ししたくなるところのものだろう。そういったことに手を取られないよう,ここに戒めておく。

参考